NORTH JAPANYOUTHDESIGN AWARD 2019 NORTH JAPANYOUTHDESIGN AWARD 2019

北日本の建築を学ぶ学生を対象にした、建築デザインのコンクールを開催しました。

冬は凍える寒さと豪雪に見舞われ、夏は厳しい暑さが襲う、四季の変化が顕著な東北の地。
そんな厳しい自然環境から人々を守り、暮らしを支えているのは建築です。
日々建築デザインを学び、才能あふれた学生は、地域の未来の暮らしを支える頼もしい存在。
「東北の暮らしをもっと楽しく、もっと創造的に。」そんな夢の詰まったアイデアが多数集まりました。

公開審査会 &
授賞式報告

審査員画像 プレゼン風景画像

2019年12月11日、山形県山形市の東北芸術工科大学にて公開審査による最終プレゼンと授賞式を行いました。対象となったのは、多数の応募作品の中から書類による一次審査を勝ち抜いた8作品。学生たちは緊張感のある雰囲気の中、それぞれ熱のこもったプレゼンで審査員たちに自己の作品のPRに挑みました。
適正な審査ののち、最優秀賞1作品、優秀賞2作品、審査員賞4作品が選び抜かれました。

NORTH JAPAN YOUTH DESIGN AWARD 2019 NORTH JAPAN YOUTH DESIGN AWARD 2019

最優秀賞

最優秀賞、風と雪と街と人プレゼン画像

風と雪と街と人

鈴木 悠さん (秋田県立大学)

鈴木 悠さん (秋田県立大学)画像

東北の自然は激しく、目紛しい。しかし、大らかで愉快である。1年中風の強い"秋田県由利本荘市"において自然と暮らすことを考えた。
現在の"飛鳥大橋"の在り方に疑問を持っていた私は、厳しい冬はシェルターのように人を守り、春や夏、秋は季節の風や地域を感じさせる建築を提案する。

NORTH JAPAN YOUTH DESIGN AWARD 2019 NORTH JAPAN YOUTH DESIGN AWARD 2019

優秀賞(順不同)

優秀賞、かだれプレゼン画像

かだれ

木立 鮎美さん
(東北芸術工科大学)

木立 鮎美さん (東北芸術工科大学)画像

東北といえば、⾃然や森、農作物、⾷料⾃給率が⾼いことが挙げられます。しかし、社会動態による⼈⼝減少や、少⼦⾼齢化による労働不⾜や後継が問題になっています。私は地元を離れてみて、四季によって変化する環境や暮らしの良さに気づきました。離れて⾒て、離れて⾒られて知ることがあります。それは空き家を使ったゲストハウス「かだれ」(津軽弁:仲間に⼊って)を提案します。宿泊期間は1年分。週末にきてもよし、友達を呼んでもよし。1年を通して四季を感じ、1年間の週末を普段の⽣活からはなれて豊かにして、地元の⼈と共に暮らしの魅⼒に気づいていける新たなゲストハウスです。

優秀賞、齋藤 柊さん (東北大学)プレゼン画像

0.5間の森

齋藤 柊さん (東北大学)

齋藤 柊さん (東北大学)画像

外的要因を受け入れ森のような住宅を設計するのが、本設計のコンセプトです。通常の住宅よりも細かく0.5間に区切られた空間構成に内部、外部、土足、素足スペースなどを複雑に絡ませています。大きな開口部と縁側のような関係ではなく、混んでいるからこそ生まれるムラによる快適性をデザインしています。

審査員賞

  • ■審査員賞 (竹内 昌義)
    「田園工房 ―移り変わり行く日々の中で創造するアトリエ―」 小原 豪太さん (秋田県立大学)
  • ■審査員賞 (藤野 高志)
    「そとのいえ」 小野 晃未さん (東北芸術工科大学)
  • ■審査員賞 (佐藤 欣裕)
    「車を捨てよ街へ出よう」 菅原 茉利さん (東北芸術工科大学)
  • ■審査員賞 (橋本 健史)
    「中部屋時々、中庭の生活」 藤野 純也さん (日本大学大学院)
学生作品画像 審査員、プレゼン学生画像

審査員紹介・各賞への
コメント・総評

審査員

竹内 昌義

審査員竹内 昌義氏画像
©Yusuke Abe

東北芸術工科大学教授
『みかんぐみ』共同代表
エネルギーまちづくり社 代表取締役
一般社団法人 パッシブハウスジャパン 理事

最優秀賞 (風と雪と街と人)

東北での暮らしを考えたときに、冬の寒さ、雪、風は避けて通れないものである。この作品は橋のそれらに注目して、見事なデザインをしたと思う。風を避け、視界を確保する。デザインソースは地域の特産の曲げわっぱ。公共の空間に魅力的な提案である。今回のテーマは主に、暮らし方として、住宅のそれを暗に求めていたが、その設定にとらわれずに伸びやかな提案をしていただいたことが良かったのだと思う。作者にとっての生活のリアリティーに向かい合うことは、設計者としても常に大事である。

優秀賞 (かだれ)

東北における共同体を、建築を通して表現したような作品であったと思う。人と人の繋がり、そういうものがコミュニケーションを成り立たせている。それを建築家の思いの詰まった新築ではなく、空き家のリノベーションで解決するというのも、現代的だ。建築家特有のエゴではなく、使用の対象としての建築と位置付けた。これから建築家はますます家というものではなく、場という概念をつくる職業に変わっていくに違いない。

優秀賞 (0.5間の森)

0.5間のバッファーゾーンをどう取るかが建築家の回答である。いくつかの機能を持ったこの空間は建築の温熱に対する挑戦にもなっている。それがどのくらい有効かはさておき、ある仮定を立て、検証しながらプロジェクトを進めるという点では、評価に値する。一方、実際の空間はどんなものか、大きなスケールで検討してもらうともっと良かったかと思う。

個人賞 (田園工房-移り変わり行く日々の中で創造するアトリエ-)

水田の風景の中に身を置いてみたいという最初の印象を大きく膨らませた作品と言えるだろう。春から夏、秋までの光景が目に浮かぶ。そこにあるのは、生産の現場としての場ではなく、新しい風景としての姿である。一概に良否は問えないが、新しい試みは常に必要と考える。そう考えると、部屋の数などこだわらずに、もう少し開放的な風景を獲得した方が良かったかもしれない。

総評

全体の応募数は少なかったが、様々な東北の暮らしを考えた色々な切り口があったよいコンペだったと振り返る。東北は、四季がはっきりしていて、冬が厳しい。世界の中で比べても(北海道も含めて)多雪地帯である。そういう場所の暮らしを、住宅を通して提案してきてもらえることを半ば想像していたが、それよりもかなり多くの切り口があったのは意外であり、新鮮であった。暮らしというのは住宅だけに縛られず、交通や公共建築にまで及んでいるから、当然ではあるのだが。また、社会に色々な課題を抱えている。東北には限らないが、人口減少、高齢化、産業の変化など、首都圏に住んでいると見えないものが多く見える。そういうリアリティを肌に感じながら、提案することは建築の可能性を広げるものだと思う。
コンペに出して、そういう問題意識を共有し、その解決策を探ろうとしてくれた学生さんには感謝する。何かを形にしたことで、議論のたたき台をつくることができていたら、大変嬉しい限りである。 さて、今後、もし機会があれば、もっと多くの人に参加いただき、様々な意見交換できる場所を目指したい。
参加してくれた学生さん、審査員の皆様、(ゲストの皆さん、)株式会社 ホリエのみなさん、どうもありがとうございました。

審査員

藤野 高志

審査員、藤野 高志氏画像

生物建築舎代表
お茶の水女子大学、前橋工科大学、
東洋大学、武蔵野大学非常勤講師

最優秀賞 (風と雪と街と人)

「風と雪と街と人」は、秋田の海沿いの地域の橋の上という独特な環境条件に対して、素材や空間の独自性を提案したのみならず、橋の上という移動空間を滞在空間と捉え直し、見る見られるという風景のデザインにまで踏み込んだことが、高く評価された。落雪やウィンドキャッチの問題など、さらなる検討を要する点もあるが、自らの身体を通じて日常の問題点と真摯に向き合う姿が、もっとも強く感じられた案であった。

優秀賞 (かだれ)

「かだれ」は、過疎化の進む青森の地方都市にあって、映画「おもひでぽろぽろ」のような、地元住民と観光客・移住者といった立場の異なる人たちの繋がりの接点としての縁側付ゲストハウスの提案が評価された。広域配置図などを使い、交通や風景の問題にまで踏み込みながら、プレゼンテーションを展開してもらえば、より立体的に提案を伝えることができたかもしれない。

優秀賞 (0.5間の森)

「0.5間の森」は宮城の豊かな自然環境の中に建つ住宅。バラの花のように何層にもレイヤーを重ねた求心的な平面形とすることで、外部環境との段階的な関わり方がうまくデザインされていた。狭く長い廊下で中心を取り囲む平面形式は、家族の距離感や内外の関係の多様さを生むように思えるのだが、そういった、この案自体が持つ可能性について、提案者自身がもっと意識的であれば、さらに評価されたと思う。

個人賞 (そとのいえ)

「そとのいえ」は、東北地方の自然環境や四季を感じるために、外部空間を積極的に用いた住宅で、素直な空間構成とプレゼンテーションが印象的であった。コンペ主催者であるシエルホームデザインの提案する屋上庭園が落雪対策にも寄与するように、東北地方の外部空間の可能性を様々な面からアピールできれば、東北ならではの案としてさらなる説得力を持ったように思われる。具体的な周辺環境を示せば、半地下などの空間構成が、どんな周辺環境の文脈に対応しようとしているのかも理解しやすかっただろう。

総評

最終講評に残った案は、住宅、橋、ゲストハウス、路面電車、など用途が多岐にわたった。それぞれの提案の背景には、東北地方の気候条件への応答、産業構造の変化に対するプログラムの提案、交通機関の再編、空き家の利活用など、現代の学生の多様な問題意識が感じられ、「東北の暮らし」というコンペのテーマが、広がりを持って受け止められたと感じた。応募学生は東北地方在住者が多く、自らの生活体験を通した地に足のついた現実的な提案が多かった。東北地方には明確な四季があり、日本の原風景ともいうべき環境が残されている。応募者の皆さんが東北に住んでいることの魅力を自覚し、自身の等身大の体験を出発点としながら、これからも独創的な提案をされていかれることを期待したい。

審査員

佐藤 欣裕

審査員、佐藤 欣裕氏画像

一級建築士
もるくす建築社
佐藤欣裕建築設計事務所 代表取締役

最優秀賞 (風と雪と街と人)

地域の課題を真摯にとらえ、景観と機能性を両立させ街に暮らす人たちのためにデザインされたものだと感じた。日常の困りごとを有用なものに変え、使用する人々の気持ちに直接アプローチできる建築は素晴らしいと思う。地方の材や技術を建築に応用させることは意義のあることだが、表層的になりすぎないように注意してほしい。実現してほしい作品だと心から思えるような仕上がりだった。

優秀賞 (かだれ)

応募の中で一番東北らしい作品だと感じた。大都市との違いは希薄になりつつもコミュニティーがゆるやかに形成され、排他的な面も多い中でいかにたくさんの方々に利用を促し地元との交流を図るかということだろう。そういった意味でも既存建築を利用したリノベーションは効果的であり、ゲストハウスにカフェやパブなどの機能を持ち合わせて特に年配の方々に利用してもらうことが鍵となるように思う。設計者の人柄がにじみ出るような優しいかつ実現可能な作品である。

優秀賞 (0.5間の森)

敷地想定もしっかりしていて、自然豊かな場所に意欲的な建築の計画だと感じた。グリッドの細かさが気になったが、ぺりメーターゾーンの使い方は外部環境の厳しさに対応する装置としてのアイデアだろう。外部環境を取り込むということは末端の処理が大切になる。舞踊で言えば指先の動きまで神経が行き届いているかということ。全体を考えながら細部にもアイデアがあればもっと良いと感じた。単体で成立させながら拡張性のある形状は好感が持てた。

個人賞 (車を捨てよ街へ出よう)

モータリゼーションの脱却と共に都市交通の改善はどの地域でも直面している課題である。現在の都市交通の在り方を見直し新たな提案を盛り込んだ本作品は非常に重いテーマと言えるだろう。大枠での考え方は良い方向性であると思うので、ぜひトラムとその他のアクセスとの関係性をデザインに盛り込んでほしいと思う。交通と建築との在り方が地方都市の課題であることは間違いないので、より深い提言を期待したい。

総評

東北の暮らしということでもっと題材が偏ると思っていたが、良い意味で非常に微妙な部分にフォーカスした作品が多かった印象がある。理想郷を唱えるよりも、地に足がついた社会性のあるテーマは建築をつくる上で大切なことであると思うし、特に最優秀・優秀の作品は人の機微や心理に訴えかけるものであると感じた。おしくも優秀賞を逃した作品も、現状のテーマに人間との関係性をもう少し加えることが出来ればもっと良いものになると思うし、一部であってもディテールを追究した部分があれば信憑性の増した作品になったと思う。コンペ作品であったとしてもこれで終わらず、アイデアを加え完成度を高めてほしい。

審査員

橋本 健史

審査員、橋本 健史氏画像

橋本健史建築設計事務所 代表
403architecture[dajiba] 共同主宰
名城大学非常勤講師

最優秀賞 (風と雪と街と人)

橋の両側にある歩行者道路における、雪と風を遮るための提案。季節風の方向や視界の広がり方を考慮しながら、地域の伝統的な工芸品をモチーフとした造形によって、特に冬期の厳しい環境を緩和できる可能性を示した点が評価された。地域の中でネックとなっている場所を見つけ出し、適切な回答を用意することは、建築の根幹的な可能性であるといえる。そういった生活と地続きな感性と、専門的な知性とを組み合わせることによって、地域を支え、また変えることができるのが建築だと信じている。

優秀賞 (かだれ)

青森の空き家をゲストハウス化する計画で、地域固有のアクティビティを通して、その魅力を発見・再確認しようというもの。四季折々の変化によって何が可能になるか、プログラムへの関心の高さが評価された。地域の課題に応えたいという責任感から来るものなのか、場所の捉え方にどこか抽象化したいという志向を感じたが、より高い解像度で具体的に対象の建物、建っている場所に踏み込んでこそ、普遍的な可能性というものが開かれるはずである。

優秀賞 (0.5間の森)

チューブ状の空間を平面的に幾重にも展開し、内外境界を複雑に入り乱れさせている住宅の提案。プランの形式と窓の開閉の組み合わせによって、東北の厳しい環境と積極的に付き合っていこうとする、野心的な試みが評価された。抽象的な森の中のぽつんと空いた場所に建てられることが想定されていたが、木々の配置や方位による室内環境の違い、あるいは積雪による変化など、様々な自然現象の干渉についても検討すれば、より説得力のあるものになると思われる。

個人賞 (中部屋時々、中庭の生活)

団地の改修計画。「中部屋」と呼ばれる対角に開放できる窓を持ち、外部空間と一体化できるスペースを中心に据えたプランが特徴的。画一的で手狭なプランが問題となる団地において、住み手が空間の内外を大胆に変更できるプランが評価された。浴室や洗面、トイレといった水回りがこういったプランからは切り離されており、提案としてはむしろそこを組み込むことこそが大きな可能性を持っているように見えた。

総評

「北日本の暮らし」というテーマに対して、北日本で生活をしたことがない評者が、一体何を審査できるのかと不安に思っていたが、建築家とは訪れたことのない場所で、そこにはなかった建築をつくる役割を担うことができなければならない、と覚悟を決めて審査に臨んだ。入選者全員から感じたのは、それぞれの地域の環境に確かな愛着を持っているということだ。風景やそこで慣れ親しまれている活動、厳しくとも自然とともにあるということが身体化されているように感じた。一方で、どこかステレオタイプな言葉や、杓子定規な解決策に向かっている印象も否めなかった。場所に対する批判的な見方は、本質的な意味で地域を一歩前に進めることができるし、暮らしている人間にしか絶対に知りえない高い解像度での発見は、逆説的に多くの人達の関心を呼ぶ。地域に根ざした思考が持っている可能性について、今後も粘り強く取り組んでいってもらいたいと願っている。