シエルホームデザインの取り組み家づくり
制振ダンパーとは|耐震等級3の家に効く東北の地震対策
「地震に強い家にしたいんです」。打ち合わせでこの言葉が出ない日は、ほとんどありません。ただ、詳しく伺っていくと「耐震等級3を取っておけば安心ですよね」というところで話が止まっていることが多いように感じます。
2026年7月28日、熊本県で最大震度7の地震がありました。10年前に大きな被害が出た県で、今度は別の断層が動いた地震です。遠い西日本の話に見えるかもしれませんが、東北で家を建てる方にこそ確認しておいてほしい論点がいくつも含まれています。
この記事では、耐震等級3が何を守っていて何を守っていないのかを公的な調査データで確認したうえで、制振ダンパーという装置がどこに効くのかを整理します。雪が載ったまま揺れる、という東北特有の条件にも触れます。装置の紹介ではなく、判断材料として読んでいただける内容にしました。
東北は「地震が少ない地域」ではない
まず、自分の土地がどういう場所なのかを数字で見ておきます。国の地震調査研究推進本部は、主な地震について「今後30年以内に起きる確率」を計算し、毎年1月に更新しています。最新は2026年1月1日を基準日とした値です。
宮城県の数字は、全国的に見てもかなり高い部類に入ります。仙台市が公表している資料によると、宮城県沖の陸寄りで繰り返し起きてきたM7.1〜7.4の地震(いわゆる宮城県沖地震)の30年以内の発生確率は、80〜90%程度以上とされています。2026年1月14日に更新された長期評価による数字です。
山形県側は活断層で見ます。山形盆地断層帯の北部はM7.3程度の地震が想定され、30年以内の発生確率は0.003〜8%。上限の8%は、地震本部の分類でいう「Sランク」(30年確率3%以上)にあたります。南部も同じくM7.3程度で1%です。
| 想定される地震 | 規模 | 30年以内の発生確率 |
|---|---|---|
| 宮城県沖地震(陸寄りのプレート間地震) | M7.1〜7.4 | 80〜90%程度以上 |
| 宮城県沖のひとまわり小さいプレート間地震 | M7.0以上 | 90%程度 |
| 長町−利府線断層帯(利府町〜仙台市〜村田町) | M7.0〜7.5 | 1%以下 |
| 山形盆地断層帯 北部 | M7.3程度 | 0.003〜8% |
| 山形盆地断層帯 南部 | M7.3程度 | 1% |
地震調査研究推進本部の長期評価(2026年1月1日算定)および仙台市公表資料より作成。
そして、東北で最後に大きく揺れたのはそれほど昔ではありません。2019年6月18日の山形県沖の地震はM6.7で、鶴岡市で震度6弱、新潟県村上市で震度6強を観測しました。負傷者が出て、住宅の一部破損は1,200棟を超えています。
この章のポイント
宮城は「ほぼ確実に来る」水準、山形の活断層は「確率の桁は小さいが日本の活断層の中では高いグループ」。性格は違いますが、家の設計としてやるべきことは同じです。

耐震等級3が保証していること、していないこと
耐震等級は、住宅性能表示制度で定められた3段階の指標です。等級1が建築基準法と同じ水準で、数百年に一度の極めて稀な地震(震度6強〜7クラス)で倒壊・崩壊しないことを検証します。等級2はその1.25倍、等級3は1.5倍の力に対して倒壊しないことを確かめた住宅です。
熊本の実測データが示した、等級3の実力
この等級3が実際の大地震でどうだったかは、国土交通省の委員会が調べています。2016年の熊本地震のあと、被害が集中した益城町の中心部で建物を1棟ずつ調べた悉皆調査です。
報告によれば、住宅性能表示制度で耐震等級3だった木造16棟のうち、14棟(87.5%)が無被害。残る2棟も軽微または小破にとどまり、大破・倒壊はゼロでした。震度7を2度受けた地域での結果ですから、等級3を取る意味は数字ではっきり示されたと言っていいと思います。
それでも「無傷の約束」ではない
ただ、同じデータをもう一度見てください。16棟のうち2棟には被害が出ています。等級3は「壊れない家」ではなく、「想定した地震力に対して倒壊・崩壊しないことを検証した家」です。ここを混同すると、期待と現実がずれます。
もう一点。耐震等級の検証は、原則として大地震を1回受けたときの話です。何度も揺すられて、少しずつ傷が溜まっていく過程までは織り込まれていません。そして東北で家を建てるうえでは、この「1回では終わらない」という前提こそが効いてきます。
繰り返す揺れと、雪が載ったままの揺れ
2016年の熊本地震では、4月14日にM6.5の地震で益城町が震度7、その約28時間後の4月16日にM7.3の地震で益城町と西原村が再び震度7を観測しました。気象庁の震度階級が定められて以降、同じ地域で震度7が2回観測されたのは初めてです。
このとき何が起きたか。1回目の揺れで柱や梁の接合部、耐力壁に目に見えない傷が入り、2回目でそこから壊れた建物が少なくなかったと報告されています。構造は、傷んだ分だけ次の地震に対する強さが落ちます。当たり前ですが、図面の上では見えにくい話です。
確率の低さは、順番を教えてくれない
2026年7月28日16時27分、熊本県熊本地方でM7.1の地震が発生し、宇城市と氷川町で震度7を観測しました。気象庁が「令和8年熊本地震」と命名した地震です。国内で震度7が観測されたのは2024年の能登半島地震以来、熊本県では10年ぶりでした。
注目したいのは、この震源域を含む日奈久断層帯の区間が、地震前の長期評価では30年以内の発生確率「ほぼ0〜16%」「ほぼ0〜6%」とされていた点です。確率が小さいことは、順番が後ろだという意味ではありません。山形盆地断層帯の0.003〜8%という数字も、同じ読み方をする必要があります。
雪が載ったまま揺れる、という東北の条件
もうひとつ、東北で建てるなら外せない視点があります。冬に地震が来たとき、屋根には雪が載っているということです。
建築基準法では、垂直積雪量1m以上、または積雪の初終間日数が30日以上の区域を「多雪区域」として扱います(平成12年建設省告示第1455号)。山形県内をはじめ、東北には該当する市町村が数多くあります。
この多雪区域では、地震力を計算するときに積雪荷重の0.35倍を建物の重さに加えることになっています。雪が載って重くなった状態で揺すられる前提で計算する、ということです。一般地域にはない条件で、雪国の構造計算はここが違います。
絵空事ではありません。2024年1月1日の能登半島地震は、真冬の元日に起きました。除雪も避難も、夏とはまったく別の条件下で行われています。
依頼先を比べるときは「耐震等級3ですか」に加えて、「多雪区域として、雪の重さを加えた地震力で計算していますか」と聞いてみてください。同じ等級3でも、前提が違えば中身は変わります。

制振ダンパーは何をする装置なのか
地震への備えは、大きく3つに分かれます。耐震は建物を強くして揺れに耐える方法。制振(制震)は揺れのエネルギーを装置で吸収して、建物の変形そのものを小さくする方法。免震は建物を地面から切り離す方法です。
免震は木造の戸建てでは装置と地盤の条件、コストの両面でハードルが高く、現実的な選択肢になりにくいのが実情です。そこで木造住宅では、耐震を土台にして制振を足す組み合わせが主流になっています。
evoltz(エヴォルツ)という選択
当社が採用している制振ダンパー「evoltz」は、ドイツのBILSTEIN(ビルシュタイン)社が製造する油圧式の装置です。自動車のショックアブソーバーの技術を木造住宅向けに応用したもので、メーカーによれば世界3か国で特許を取得した「バイリニア特性」を持ちます。
この特性は、小さな揺れの領域から大きな減衰力を発揮し、大きな揺れの領域でもそれを維持する、というものです。大地震のあとに何度も来る余震まで含めて効かせることを狙った設計になっています。
| 項目 | メーカー公表値 |
|---|---|
| 製造 | BILSTEIN社(ドイツ) |
| 揺れの低減 | 最大50%軽減 |
| 設計耐用年数 | 60年・メンテナンスフリー |
| 製品保証 | 10年 |
| 耐久条件 | 100万回作動/−20℃〜80℃ |
evoltz社の公表資料より。低減率は条件によって異なります。

「−20℃〜80℃」という温度域は、東北で使ううえでは実務的な意味を持ちます。氷点下の朝が続く地域で、油圧の装置が想定どおりに動くかどうかは確認しておきたい点だからです。装置そのものの仕組みは制振ダンパー「evoltz」の解説記事で詳しく紹介しています。
正直に書きます|制振ダンパーで解決しないこと
ここまで読むと万能の装置に見えるかもしれませんが、そうではありません。制振ダンパーで解決しないことを、先にお伝えしておきます。
1. 費用は確実に増える
制振ダンパーは標準的な木造住宅に必ず付いているものではなく、採用すれば装置代と施工の手間がかかります。予算が厳しい状況で、断熱性能や耐力壁を削ってダンパーを載せる、という順番はおすすめしません。
2. 弱い家を強くする装置ではない
制振は、耐震がきちんとできていて初めて意味を持ちます。必要な壁量が確保され、壁の位置が上下階でそろい、基礎と接合部が設計どおりに施工されている。その土台があるうえで、揺れ幅を減らすのが制振の役割です。
順番としては、地盤調査と地盤補強、基礎、構造計算による耐震等級3、そのうえで制振。この順を飛ばして装置だけ足しても、期待した効果にはなりません。
3. 家財と設備までは守れない
建物の変形が小さくなれば、家具の転倒や内装のひび割れは減る方向に働きます。ただ、それは「軽くなる」であって「起きない」ではありません。背の高い家具の固定や、寝室に倒れてくるものを置かない配置は、性能とは別に必要です。
耐震も制振も、地震のあと「その家に住み続けられるか」を上げるための投資です。倒れないことがゴールではなく、住み続けられることがゴール。そう考えると、優先順位を決めやすくなります。
当社の場合|耐震等級3と制振ダンパーの二段構え
当社は耐震等級3に対応し、そのうえで制振ダンパーevoltzを採用しています。強さで耐える耐震と、揺れ自体を減らす制振。この二段構えを、東北の条件に合わせて設計に落とし込む、というのが基本の考え方です。
構造の話は、断熱の話と切り離せません。窓を大きく取れば耐力壁は減りますし、吹抜けをつくれば水平の力の流れ方が変わります。図面の段階で構造と性能を同時に見ながら決めていくことになります。断熱・気密の考え方はUA値とC値の記事にまとめました。
構造の話は難しくて自分には分からないと思っていました。でも、なぜこの位置に壁が必要なのかを図面で説明してもらえたので、納得して決められました。
参考までに、外部からの評価も一つご紹介します。当社は断熱・気密・耐震等級・制振部材の有無という4項目について、制振ダンパーメーカーのevoltz社が全国6,366社を数値化した調査で1位の評価をいただいています(同社調べ/2025年11月時点)。
どの水準を狙うかは、土地の条件とご予算に合わせて決めていくものです。構造の考え方は、実際の建物とモデルハウスの図面をご覧いただくのがいちばん早いと思います。
この記事のまとめ
- 宮城県沖地震(M7.1〜7.4)の30年以内発生確率は80〜90%程度以上。山形盆地断層帯 北部は最大8%で「Sランク」
- 益城町の悉皆調査では耐震等級3の木造16棟中14棟が無被害。ただし2棟には被害があり、等級3は無傷の約束ではない
- 耐震等級の検証は大地震1回が前提。熊本では震度7が2度観測され、繰り返しの揺れが現実に起きている
- 多雪区域では地震力に積雪荷重の0.35倍を加算する。「雪込みで計算しているか」は依頼先に聞く価値がある
- 制振ダンパーは耐震ができていて初めて効く。地盤・基礎・耐力壁が先、装置は後
よくある質問
耐震等級3にすれば、制振ダンパーは要りませんか?
等級3は「想定した地震力で倒壊・崩壊しない」ことを検証した水準で、原則として大地震を1回受けたときの話です。熊本では同じ地域で震度7が2度観測され、1回目の損傷が2回目に響いた例が報告されています。制振は、その繰り返しに対して建物の変形を小さく抑えるための備えです。要不要はご予算と優先順位次第ですが、役割が違うものだとお考えください。
制振ダンパーにメンテナンスは必要ですか?
当社が採用しているevoltzは、メーカーによると設計耐用年数60年のメンテナンスフリー設計で、製品保証は10年です。耐久条件として100万回の作動と−20℃〜80℃の温度域が公表されています。詳細な条件は最新のメーカー資料でご確認ください。
山形は地震が少ないと聞きますが、そこまで備える必要はありますか?
山形盆地断層帯 北部はM7.3程度の地震が想定され、30年以内の発生確率は0.003〜8%です。上限値は地震本部の分類で3%以上の「Sランク」にあたります。2026年7月の熊本の地震も、確率が「ほぼ0〜16%」などとされていた断層帯で起きました。確率が小さいことは、起きる順番が後ろだという意味ではありません。
雪国の家は、地震に対して不利になりますか?
屋根に雪が載れば建物は重くなり、地震のときに働く力も大きくなります。そのため多雪区域では、地震力の計算に積雪荷重の0.35倍を加えることが定められています。この前提で構造を設計していれば不利にはなりません。逆に、雪を考慮しない計算のままでは前提が足りないことになります。
※本記事の情報は2026年8月時点です。地震の発生確率は地震調査研究推進本部の長期評価(2026年1月1日算定)および仙台市公表資料、熊本地震の被害調査は国土交通省「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告、令和8年熊本地震の諸元は気象庁発表、積雪荷重の扱いは建築基準法施行令および平成12年建設省告示第1455号、制振ダンパーの仕様はevoltz社の公表資料に基づきます。評価や制度は更新されるため、最新は公式および当社でご確認ください。


